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2007年1月25日 (木)

グレッグ・イーガン「ひとりっ子」




ひとりっ子 (ハヤカワ文庫SF)

ひとりっ子 (ハヤカワ文庫SF)






本書は、「祈りの海」「しあわせの理由」(ともに本文庫)につづく、グレッグ・イーガンの日本オリジナル第三短編集である。



収録されているのは、順に「行動原理」「真心」「ルミナス」「決断者」「ふたりの距離」「オラクル」「ひとりっ子」の7編。


「行動原理」と「真心」は「インプラント」を用いる主人公の話。インプラントを鼻から吸い込むと脳に潜入、ナノマシンを放出して、神経組織を調べて適切にリンクし、設計された目的を果たす。



左膝でオルガスムを感じられるようにしたり。青い色を、失われて久しい記憶の中の母乳の味に感じられるようにしたり。さまざまな前提を脳に結線したりー「わたしは成功する」「わたしはこの仕事を楽しんでいる」



妻を殺されたり離婚を繰り返したりして来た主人公たちは、陽に目的が記述されたインプラントではなく、メタなレベルで目的を記述したインプラントを使う。すなわち、そのインプラントを自ら進んで使った人に特定の「信念一式を生じさせる」インプラントや、脳の特定の一部を「固定して変化しないようにする」インプラント。生活する過程で人を憎んだり人を愛したりして、その一時点で、自ら進んでその精神状態を、機械を使って固定する。このとき、固定されたあとの自主性やら自由意志やらは、過去の自分に強く拘束され続ける。過去の自分と現在の自分とは連続しているが同一ではない、という意味においてidenticalではない。そんな過去の自分に強く拘束され続ける現在の自分、という奇妙な状況を読者も体験できる。


「ルミナス」は、ふたつの「物理的に真であるような」数学の系をめぐる話。それらふたつの系の「内部では」矛盾なく論理を組み立てられるが、それら二つは互いに矛盾している(!)。そして、その二つの系の矛盾をあらわにする命題が次々と見つかる。その命題の分布が描くパターンの美しさや、その命題を巡るサスペンスが魅力的。読み進むにつれてひょっとしたらそんなこともあるかもと思ってしまうのは、筆力のなせる技か。


「決断者」は、なつかしのMinskyのモデルを文章により映像化したような作品。「心の社会」を初めて読んだときの興奮と落胆を思い出した。


「オラクル」と「ひとりっ子」は量子力学が提供する多重世界とロボットの自我と尊厳が重要なテーマ。特に「ひとりっ子」には鉄腕アトムが描くロボットの悲哀や人との共存、攻殻機動隊やイノセンスの人形、ホフスタッターの考察などなどなど、SF好きが好きなことが沢山ちりばめられた作品。「行動原理」ではインプラントを介して過去の自分が未来の自分に干渉するが、「オラクル」「ひとりっ子」では多重に歴史が分岐し、選択することにより選択されなかった自分と決別する。この意味ではインプラントを使った話と地続きでもあり、考察は深まっていて、個人的には魅力も増しているように思う。もっとも「ひとりっ子」は、



疑似科学の力を借りて人間を「異化」してみせる



ことに成功していて、普通に文学作品の小品としても楽しめる。ネタバレになるので詳しくは触れないが、母が母になって泣くシーンは印象的であった。


どの作品にも、ユーモア、粋なガジェットが山盛りで、お得な一冊。



GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊

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